野営の見張りの時間。他の仲間は眠る時間。さっきまでくだらない事言って笑っていたジーニアスも、姉に寄り添って寝息を立てている夜更けに、青い髪の暗殺者なんか見つけたら、自分のする事は剣を向けて敵襲を告げる事なのだと思うけれど。今日のところは殺意も敵意も見受けられないものだから、代わりに差し出したのはホットコーヒーだった。

 誰でもいいから話し相手が欲しかったのかもしれない。目の前の男にこの心情を知られたなら、子どもっぽい寂しがりだと鼻で笑われるだろうけれど。

 冬の空、街から遠く離れた森の中から見る夜空は星で溢れていた。その中に、欠けた大きな月がポツンとひとつ。

「星はたくさんあるのに、月って一人で寂しそうだよな。テセアラの月とシルヴァラントの月、両方同じところにあって、仲良くやっていけりゃあ空もにぎやかになるのにな!」
「二つの世界の月が同じ空に並ぶとして、実際の距離はだいぶ離れているだろう。そもそも同じところに住んでいるからといって、仲良しこよしとは限らん。それは貴様もわかっている事だろう」
「わかってるよ、そんなこと。ただの与太話だって」

 倒木に並んで座るユアンとだって、間にもう一人入れそうなくらいの距離がある。

「だけどさ、俺達だってこうして何の因果か一緒にコーヒーなんか飲んでるわけだし。月だって、全然違う世界にいるよりは、仲良くやれる可能性はあるだろ?」
「どうだかな」

 マグカップを置いて、ユアンは人一人分の距離を詰め、ロイドの頬に触れる。

「目につくようになったぶん、悪い考えだって浮かぶかもしれんぞ」
「その気があったら、最初から一緒にコーヒーなんか飲まなかったろ?」

 物騒な事をする気にならないくらい、星の綺麗な夜だったからか、コーヒーを持っていたおかげか。ユアンの手は温かく、少年の無邪気な想像の中の月のように、静かに寄り添うだけだった。