クラトスが買い出しから帰宅すると、あまり菓子作りが得意ではない息子が、お菓子作りの本を片手にクッキーを焼いているところだった。
「父さん、おかえり。ちょうど焼けたところだからさ、味見してくれよ」
ニッコリ差し出された皿の、少し不格好な形の星やハート型のクッキーを口にして「美味いな」と言えば、可愛い愛息子は「良かったー、俺お菓子とかあんまり作らねえからさ」とニコニコ。
息子の為なら今から100でも200でも褒めてやりたい、とバカ親を発揮しそうになるクラトスだが、当の息子は可愛い包みの袋を掴み、上着を着てお出かけモードである。
「どこかに出かけるのか?」
「ユアンのとこ。行ってきまーす」
何か言いかける前に玄関を飛び出して行ってしまった息子に、父は撃沈した。
〇
不愛想な父が笑って褒めてくれたのは嬉しかったが、今から渡す相手はなかなかそうもいかない。口を開けばロイドに向かってイヤミか、からかうような言葉か、そんなものばかり。それでも気になるのだから仕方がない。とりあえずドアを開けてくれただけよしとしよう。
「何の真似だ」
「今日はバレンタインデーだろ。だからユアンにもクッキー、持って来た」
「そのくらいは見ればわかる。私はその、貴様の首についているリボンの事を言っている」
とにかく入れ、と人目を気にしたらしいユアンが中に入れてくれた。
「で、その格好はなんだ」
首についた、ピンクのプリティリボンは、ユアンのマンションの部屋のインターホンを押す前にロイドが自分でつけたものだった。
『プレゼントにはリボンだよ~』
『これつけて迫ればどんな堅物も一撃必殺よ~』
と言うゼロスとコレットの言葉を信じて実行してみたものの、思ったより感触は良くないようだ。
「コレットとゼロスが、これつけて俺がプレゼントだって言えば一撃必殺だって」
「……あの天然娘とタラシ男はロクな事を思いつかないな」
額を抑えてため息を吐いたユアンだが、改めてロイドに問う。
「で、お前はちゃんと意味がわかって言っているのだろうな」
「バカにすんな、わかってるさそんなの。今日一日好きなだけこき使われていいって事だろ」
またもやユアンのため息が聞こえたが、腕を引かれ、リビングのソファまで連れて来られる。
「そうか、じゃあこき使ってやるとするか。まず上着を脱げ」
「へ? ああ……」
大人しく上着を脱ぎ、ソファにかける。その無防備さに「本当にわかってないのか」と呆れたような顔をするユアンは、しかし気を取り直したように、
「その菓子を食わせろ。お前の手でな」
と命令した。
「なんだ、そんな事か」
袋から差し出されたクッキーを、ユアンは指ごと口にした。
「うわっ」
噛まれると思って手を引こうとしたロイドの指を、ユアンがいやらしく舐め上げる。ゾクリとする背筋。
「どうした、さっさともう一枚よこせ」
「だ、だってこんなの……っ!」
ソファに押し倒されて、怒ったような顔で見おろされて、ロイドはようやく、今の自分が好物のビーフみたいな立場にある事を反射的に感じ取った。
「一般的に、男に向かって自分がプレゼントになるというのは、おいしく頂いてくださいという意味だ。わかったか」
「……大変よくわかりました」
時に鈍い時のあるロイドではあるが、臆病者のつもりはない。自分で言った事の始末はつけるつもりで、覚悟を決めたが、ユアンは存外あっさりとロイドの拘束を解いた。
「そういう事はせめてもう一年後。大人になってから言いにこい」
「ちぇっ、また子ども扱いかよ」
「そう言うな、前借りは貰う」
さぞかしキスがしやすいであろうロイドの額に触れた唇の感触は、先ほどの未知数の指の感触より心地よかったけれど。そんな自分の感想こそ、まだまだ子どもの証なんだろうな。と、地頭の悪くないロイドは自分自身で悟ってしまい、ムスッとする自分を見て遠慮なく笑うユアンに押し黙るしかなかった。父と違って遠慮のないやつである。
「父さん、おかえり。ちょうど焼けたところだからさ、味見してくれよ」
ニッコリ差し出された皿の、少し不格好な形の星やハート型のクッキーを口にして「美味いな」と言えば、可愛い愛息子は「良かったー、俺お菓子とかあんまり作らねえからさ」とニコニコ。
息子の為なら今から100でも200でも褒めてやりたい、とバカ親を発揮しそうになるクラトスだが、当の息子は可愛い包みの袋を掴み、上着を着てお出かけモードである。
「どこかに出かけるのか?」
「ユアンのとこ。行ってきまーす」
何か言いかける前に玄関を飛び出して行ってしまった息子に、父は撃沈した。
〇
不愛想な父が笑って褒めてくれたのは嬉しかったが、今から渡す相手はなかなかそうもいかない。口を開けばロイドに向かってイヤミか、からかうような言葉か、そんなものばかり。それでも気になるのだから仕方がない。とりあえずドアを開けてくれただけよしとしよう。
「何の真似だ」
「今日はバレンタインデーだろ。だからユアンにもクッキー、持って来た」
「そのくらいは見ればわかる。私はその、貴様の首についているリボンの事を言っている」
とにかく入れ、と人目を気にしたらしいユアンが中に入れてくれた。
「で、その格好はなんだ」
首についた、ピンクのプリティリボンは、ユアンのマンションの部屋のインターホンを押す前にロイドが自分でつけたものだった。
『プレゼントにはリボンだよ~』
『これつけて迫ればどんな堅物も一撃必殺よ~』
と言うゼロスとコレットの言葉を信じて実行してみたものの、思ったより感触は良くないようだ。
「コレットとゼロスが、これつけて俺がプレゼントだって言えば一撃必殺だって」
「……あの天然娘とタラシ男はロクな事を思いつかないな」
額を抑えてため息を吐いたユアンだが、改めてロイドに問う。
「で、お前はちゃんと意味がわかって言っているのだろうな」
「バカにすんな、わかってるさそんなの。今日一日好きなだけこき使われていいって事だろ」
またもやユアンのため息が聞こえたが、腕を引かれ、リビングのソファまで連れて来られる。
「そうか、じゃあこき使ってやるとするか。まず上着を脱げ」
「へ? ああ……」
大人しく上着を脱ぎ、ソファにかける。その無防備さに「本当にわかってないのか」と呆れたような顔をするユアンは、しかし気を取り直したように、
「その菓子を食わせろ。お前の手でな」
と命令した。
「なんだ、そんな事か」
袋から差し出されたクッキーを、ユアンは指ごと口にした。
「うわっ」
噛まれると思って手を引こうとしたロイドの指を、ユアンがいやらしく舐め上げる。ゾクリとする背筋。
「どうした、さっさともう一枚よこせ」
「だ、だってこんなの……っ!」
ソファに押し倒されて、怒ったような顔で見おろされて、ロイドはようやく、今の自分が好物のビーフみたいな立場にある事を反射的に感じ取った。
「一般的に、男に向かって自分がプレゼントになるというのは、おいしく頂いてくださいという意味だ。わかったか」
「……大変よくわかりました」
時に鈍い時のあるロイドではあるが、臆病者のつもりはない。自分で言った事の始末はつけるつもりで、覚悟を決めたが、ユアンは存外あっさりとロイドの拘束を解いた。
「そういう事はせめてもう一年後。大人になってから言いにこい」
「ちぇっ、また子ども扱いかよ」
「そう言うな、前借りは貰う」
さぞかしキスがしやすいであろうロイドの額に触れた唇の感触は、先ほどの未知数の指の感触より心地よかったけれど。そんな自分の感想こそ、まだまだ子どもの証なんだろうな。と、地頭の悪くないロイドは自分自身で悟ってしまい、ムスッとする自分を見て遠慮なく笑うユアンに押し黙るしかなかった。父と違って遠慮のないやつである。